大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成6年(オ)1095号 判決 1994年10月25日

上告人

甲野とよ

甲野キサ

甲野清志

成田フミ

牧野トミ

甲野次雄

右法定代理人後見人

甲野清志

右六名訴訟代理人弁護士

佐藤欣哉

吉村和彦

被上告人

大泉機械工業株式会社

右代表者代表取締役

大泉諭平

被上告人

大泉機械工業株式会社

右代表者代表取締役

大泉諭平

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人佐藤欣哉、同吉村和彦の上告理由第一について

民訴法四二〇条一項六号に該当する事由を再審事由とする再審の訴えが同条一項但書により許されないのは、再審原告が、再審の訴えの対象となった判決に対する上訴により、右再審事由のほか、同条二項の要件を主張したか又は右要件の存在を知りながらこれを主張しなかった場合に限られるものである。(最高裁昭和四四年(オ)第二一〇号同四七年五月三〇日第三小法廷判決・民集二六巻四号八二六頁)。また、同条二項の「証拠欠缺外ノ事由ニ因リ有罪ノ確定判決…ヲ得ルコト能ハサルトキ」とは、再審の訴えの対象となった判決の証拠とされた文書の偽造等につき、本来ならばその実体において有罪の確定判決を得ることが可能であったのに、被疑者の死亡、公訴権の時効消滅、不起訴処分等実体に関係のない事由のためこれを得られなくなったことをいうものであるから、文書の偽造等につき有罪の確定判決がない場合に同条一項六号に基づいて再審を申し立てる当事者は、被疑者の死亡等同項所掲の事実だけではなく、それらの事実がなければ有罪の確定判決を得ることが可能であったことについてもこれを立証しなければならないものというべきである(最高裁昭和三九年(オ)第一三七四号同四二年六月二〇日第三小法廷判決・裁判集民事八七号一〇七一頁、最高裁昭和四八年(オ)第一一八九号同五二年五月二七日第二小法廷判決・民集三一巻三号四〇四頁)。そして、右のように、民訴法四二〇条一項六号に該当する事由を再審事由とし、かつ、同条二項の適法要件を主張する再審の訴えにおいては、被疑者の死亡等の事実が再審の訴えの対象となった判決の確定前に生じた場合であっても、文書の偽造等につき有罪の確定判決を得ることを可能とする証拠が再審の訴えの対象となった判決の確定後に収集されたものであるときは、同条一項但書には該当せず、再審の訴えが排斥されることはないというべきである。

これを本件についてみると、原審の適法に確定したところによれば、再審甲五号証の売上帳及び加藤四郎の証言が得られたのは、昭和六二年一一月一〇日に再審の訴えの対象となった判決が確定した後であり、被上告人らは、これらの証拠により、右確定判決の証拠となった甲一一号証の株券は、大泉機械工業株式会社の代表取締役の地位を失った亡甲野兵太郎が昭和五二年一一月ころ右会社の変更前の商号である丸兵製作所の代表取締役名義で作成日付をさかのぼらせて作成した偽造の文書である、ということを主張、立証しており、また、これらの証拠は、右文書偽造について有罪の確定判決を得ることを可能にするものであるが、それが得られた時点で既に行為の時から七年が経過し、公訴時効の期間が満了していたというのである。そうすると、本件再審の訴えは、民訴法四二〇条二項の前記の要件を具備しており、同条一項但書によって不適法となるものではない。これと同旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨はすべて採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人佐藤欣哉、同吉村和彦の上告理由

第一 再審事由について

一 上告人らは、被上告人らの再審の訴えは、民訴法四二〇条一項但書前段又は後段に該当するものであり不適法であると主張し、却下を求めたが、原判決は、再審の訴えが同条一項六号に基づいて提起された場合において、上訴人がその事実を知っていても、その事実は確定しているわけではないのであるから、本件のように、同条二項の要件が判決確定後に具備されたときは、上訴人は、再審の訴えを提起することができるものと解される、として上告人らの主張を排斥した。

右は民訴法四二〇条の解釈を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があり、且つ、後記のとおり最高裁の判例にも違背するものである。

二 民訴法四二〇条の定める再審事由を何と把握するかについては、三つの説がある。第一は再審事由を一項四号ないし七号の事由と解し、二項は再審制度の濫用を防止するために設けられた再審の訴の適法要件と解する説(適法要件説)であり、第二は一項四号ないし七号の事由と二項の事実とが合体して再審事由を構成するとする説(合体説)であり、第三は、再審事由を一項四号ないし七号の事由と解するが、二項の事実は、再審事由の一部ではなく、再審事由たる可罰行為の犯罪性を確定する要件と解する説(再審事由具備要件説)である。

原判決の摘示する最高裁昭和四七年五月三〇日判決を合体説を採ったものと論評するものもあり、合体説が正当な法令の解釈であれば、原判決の帰結になるのは当然である。

しかしながら、右判決は合体説を採用したものとは考えられない。その理由の第一は、右判決が「同条二項の再審の訴の適法要件」と明記していることであり、その理由の第二は、最高裁昭和三六年九月一九日判決は明らかに合体説は採っておらず、前掲昭和四七年判決は昭和三六年判決を変更する手続をとっていないことである。

右のようにして昭和四七年判決は適法要件説を採ったものと解すべきであり、そうであるとすれば、旧訴訟において、当事者が実質的に再審訴訟におけると同一の攻撃防禦を尽し得たかどうかを判断すべきである(最高裁判所判例解説民事篇昭和四七年度一六二頁参照)。

三 実質的に考えても、昭和四七年判決の事例は偽造の罪の確定判決には至らなかったものの、その牽連犯たる公正証書原本等不実記載、同行使罪につき確定判決がなされたケースであって、かかる場合に再審の門を閉ざすのは正義に反する。

これに対し、本件旧訴訟は昭和四九年から同六二年もの長きにわたって争われ、その中で被上告人らは、株券の偽造を主張していた。そして、旧訴訟確定後に近隣の印刷業者をあたったところ、新甲第五号証を入手し、加藤四郎の供述を得、その時には公訴時効が完成していたというのであるが、このような場合にも再審を認めたのでは余りにも安易である。この程度の証拠の収集は旧訴訟で容易になしえたことであり、旧訴訟において攻防をなしえた事柄の範囲に該ると考えるべきである。

穿って考えると、刑事訴追に耐えうる証拠ではないが民事訴訟では相当な評価を受け得る証拠しかない場合、わざと公訴時効完成後にその証拠を基に再審を提起すると広く認められるということになりはしないだろうか。

四 前掲昭和四七年判決は、民訴法四二〇条二項前段と同様に評価しうる事案に関するものであって本件に適切ではない。

仮に右判決の一般理論を是認するとしても、本件の場合は、同条二項の違法要件の存在を知りながら主張されなかった場合に該当すると解すべきである。

いずれにせよ、本件のように確定後しかも公訴時効完成後の容易な証拠収集によって、安易に再審を認めたのでは、確定判決の法的安定性を著しく損なうこととなる。

第二 原判決には、経験則違背、理由不備ないし理由齟齬、審理不尽の違法がある。

一1 原判決の事実認定によれば、甲第一一号証の株券は加藤印刷が昭和五二年一一月ごろ亡兵太郎の依頼に基づいて印刷した丸兵製作所の株券一六〇枚のうちの一枚であるとする。

2 ところで、本訴訟において証拠として提出されている新乙第一ないし第三号証の計二〇〇枚の株券は、表題に「株式会社丸兵製作所株券」と印刷してあるもの(以下「製作所株券」という)が一六〇枚と「株式会社丸兵製作株券」と製作所の「所」が欠落してあるもの(以下「製作株券」という)が四〇枚の二種類に分かれている。

新甲第五号証によれば、昭和五二年一一月の丸兵製作所の株券の印刷は一六〇枚となっているから、この時印刷された株券は「製作所株券」とみるのが合理的である。

しかるに、甲第一一号証の株券は表題に「株式会社丸兵製作株券」と印刷されており、これは証拠上四〇枚しかないことは明らかであり、昭和五二年一一月ごろに加藤印刷で印刷された株券とは明らかに異なるものである。

従って、原審の前記事実認定は明白な証拠の見誤りであり、重大な事実誤認である。

原審は、前記事実を認定し甲第一一号証を偽造されたものとしたが、右のとおり、甲第一一号証は、昭和五二年ごろ偽造されたものでは決してなく、明白な誤謬が存在する。

3 右のような明白な誤謬に基づき、本件株式会社譲渡契約を有効とした原判決は、当然に破棄を免れない。

4 また、原判決は株券の印刷が昭和五二年に一度なされただけだと認定するが、右のように上告人らの所持する株券には二種類のものがあり、印刷が一度しかなされなかったということはあり得ない。昭和五二年以前に印刷された可能性が大きいのであり、この点何ら言及しない原判決は理由不備と言わざるを得ない。

二1 本件では株式譲渡契約の有効性につき、詐欺による取消、錯誤、公序良俗違反等々の実体的な争点がある。そして旧訴訟においてはこれらの点につき、一三年間にもわたって争い、本再審においても更に証拠調べがなされた。

原判決はこれらの争点につき、第三判断の三としてわずか五行の説示で切り捨てている。これでは到底理由を示したものとは言えない。

民訴法一九一条一項三号が求める理由は、当該事件の訴訟資料に基づいて結論を出すに至った経過についての事実上、法律上の根拠を説示するものであって、争いのある事実についてはいかなる証拠によっていかように確定したかを明らかにしなければならない。

原判決は理由不備のそしりを免れないものである。

2 本件株式譲渡行為は事実上経営権の譲渡になる。これがわずか一日の間にさしたる理由もなく、合意に至るなどということは到底考えられない。わずか金一五〇万円の金員を得るために何のわだかまりもなく経営権を譲渡するなどということは考えられない。

亡兵太郎が供述するように、強力な甘言、脅迫があったからこそ、このような譲渡行為がなされたと考えるのが自然であり、その争点をたった五行で切り捨てるのは判決の体をなしていないと言わねばならない。

以上

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